ぶん文Bunレビュー(ジャック・ロンドン『白い牙』)
「ぶん文Bunレビューキャンペーン」に新たな感想をお寄せいただきました。今回もWEBからのご応募にていただきました。ありがとうございます!
今回の投稿はぶん文Bunネーム「円」さんから。「まどか」さんとお呼びするのでしょうか?またプレゼントのオリジナルしおりをお受け取りの際にお聞かせくださいね!
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さぁ、今回は米文学のキャノン(古典)と言って良いでしょう『白い牙(White Fang)』です。ロバート・フロストやジーン・ウェブスターと同年代の作家ジャック・ロンドンが著し、1906年5月から10月にかけてThe Outing Magazineへ連載されました。イーサン・ホーク主演で映画化もされていますね。
今回読み解いていただいたのは、白石佑光訳の新潮社版です。それでは、円さんのレビューをご覧ください↓
『白い牙』(ジャック・ロンドン)
雪の中、冷徹な眼差しでこちらを見ているオオカミのカバーが目を引く一冊。ジャック・ロンドンという作家を知ったのは、今年公開された映画、「野性の呼び声」を観てからです。
本はこの『白い牙』と「野性の呼び声」が収録された『犬物語』をお借りしたのですが、どちらも犬・オオカミの目線で細かくリアルに描写される世界は、あたかもロンドンが実際に体験してきたかのようです。読んでいて圧巻されっぱなしでした。
ところで正直な話、自分は飼っている犬に対して、憤りや落胆のようなものを感じる時がままあります。それが何故かはこれまで自分でも説明をつけることができなかったのですが、この『白い牙』を読んでいく中で、その理由はある程度解消することができたのでした。
“オオカミ属のあらゆる闘争的な血が、からだじゅうにわきたち波うっていた。それが生きることであったが、子オオカミはそのことを知らなかった。自分がこの世界にある意義を実感しているだけだった。言いかえれば、自分がつくられた目的――つまり、肉を殺すことをはたしているのだった。そして自分の生存を正当化しているのであって、生命はそれより偉大なことはなし得ないのである。というわけは、生命は生命に負わされている務めを最高度にはたしたとき、その頂点に達するものだからだ。”
(一〇九頁)
“腹が一杯になることと、日なたでのんびりとうたたねすること――そのようなことは、熱情と骨折りへの十分な報酬であったが、一方熱情と骨折りは、そのもの自体がまた報酬であった。それらは、生命の現れであり、生命は、生命そのものを現している時がいつも幸福なのだ。だから、子オオカミは敵対する環境をとがめなかった。”
(一二六頁)
(因みに引用の子オオカミはこの作品の主人公であり、彼には犬の血が混ざっているのです。)
ふと本から顔を上げると、そこには狩りをすることも無く、飢餓を経験することも無く、餌を食べた後は好きなだけ眠る我が家の犬の姿。
お前にオオカミの血は本当に流れているのか? お前はそれで本当に幸せなのか? と問いたいところですが、結局のところ情けないのは犬ではなく人間なのかもしれません。
現代文明で生きる人間そのものが、彼らが本能としての牙を失わざるを得ないような接し方をするほかないわけで……。
本来野性の動物がもつ美しさや高貴さに触れることができた一冊でした。
・・・円さん、ありがとうございます!
しっかりと原典引用もされてのレビューで、ぶん文Bunレビューのレベルがいきなりグッと上がりましたね!
\(^o^)/(もちろん、どんなレビューも大歓迎ですよ)
突然White Fangと比較された円さん宅の犬さんに同情しつつ、レビューの締めくくりの文章にもあるような、ロンドンが描く野生と文明の対流でうごめく生命の在り方を感じさせられました。
・・・アメリカ文学とは外れますが「オオカミ」繋がりで『白い牙』のような野生の美しさや高貴さを感じられる作品として、乃南アサさんの『凍える牙』もいいですよね。こちらも、狼と犬の混血(ウルフ・ドッグや「狼犬」などと呼ばれる)が「主役」です。
また直近の第163回直木賞を受賞した『少年と犬』も、人間社会で生きながら野生の本能を発揮する犬の話です。こちらはオオカミでこそありませんが、犬 —オオカミの血が流れる者— という生き物の高潔さに圧倒される作品としてつながることでしょう。
『凍える牙』も『少年と犬』も椎葉村図書館「ぶん文Bun」にございますので、ぜひご来館のうえお問い合わせくださいね!
※※↓その他のレビューもご覧ください↓※※
・ぶん文Bunネーム「ぽよ」さん — 『日本語のために』(池澤夏樹編)
・ぶん文Bunネーム「ななろくに」さん — 『むらさきのスカートの女』(今村夏子)
・ぶん文Bunネーム「ななろくに」さん — 『竜馬がゆく』(司馬遼太郎)
・ぶん文Bunネーム「ろなさん」さん — 『記憶喪失になったぼくが見た世界』(坪倉優介)
(クリエイティブ司書・小宮山剛)